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建築の評価

 人の評価は、その人の長所によって決まるものです。例え短所が多くても、多様性を許容する社会では、人の長所を評価する傾向があります。しかし、建築において私は異なる考え方を持っています。
 一般的には、人々は長所と短所を両方持つものであり、それは当然のことです。しかし、建築においては、例えばデザインが優れている建物であっても維持管理性や断熱性に劣る場合、断熱性や耐震性が優れている建物でも使いにくい間取りがある場合など、建物の長所は時間の経過と共に日常の中で埋もれて当たり前のものとなり、忘れられていく傾向があります。しかし、暑さや寒さ、使いにくさから生じるストレスは徐々に積み重なり、最終的に表面化してしまいます。そのため、建築においては短所が評価となり、長所はあくまでプラスαとして捉えられるべきだと私は考えています。
 徹底的に短所を克服した空間こそが、生活のプレッシャーやストレスを軽減し、本当にリラックスできる家の基盤となります。そしてその空間で初めて長所が鮮やかさを加えるのです。別の言い方をすれば、短所が存在しない空間であれば、遠慮なく気を抜いても問題ありません。本来の自分自身を許容できる空間の基盤となり、結果として自己や長所にゆとりを持たせることができます。そのようなゆとりこそが、生活の豊かさにつながるのではないかと思います。

 自分自身を許容できる空間とは、どのようなデザインであり、どのような間取りであり、どのようなスペックを持つのか。何がストレスを引き起こし、何が喜びや幸せを感じさせるのか。まずは自分自身を再評価する必要があります。
 話は変わりますが、ハーバード大学の長期間にわたる「幸福な人生の条件とは何か」という研究の結論は次のようです。「健康で幸せな生活を送るには、良好な人間関係が不可欠です。」(※興味のある方はネット等で検索してみてください。)また、社会学や心理学では、「幸せとは、同じ価値観を持つ小規模なコミュニティの中でお互いに頼り合いながら生きること」と一般的に議論されています。逆に言えば、「人の悩みの80%は人間関係に関連しており、残りの20%はお金の問題。」とも言われています。それ以外の問題はこの2つに収れんしていくと考えられます。
 家とは帰る場所であり、これらすべての悩みを受け止める場所です。家族という人間関係を幸せの基盤とするためには、家の短所がストレスの原因となっては本末転倒です。また、建築行為は資金規模も大きいため、中途半端に行うと資産ではなく人生の負債になる可能性があります。もしかしたら、今は建てない方が良いという選択肢も提案するかもしれません。
 これらすべてを考慮した取り組みこそが、一生に一度と思われる家づくりにおいて、豊かさの本質を追求することにつながっていくと考えています。

幸福な人生の条件

設計者の役割


 設計者の役割とは、クライアントの生活の質を明確化し、建築に再構築する仕事と言えます。そのため設計者には、一人ひとり異なる多様な価値観を分解し、相互に共有し理解することから始める必要があります。しかし、再構築の過程で、設計者(建築家)としての個人的な視点や前提が影響を及ぼすことがあります。私の場合は、「ストレスのない空間の設計=気を抜いた精神状態の受容=豊かさ」という価値観になります。これが建築家個々の個性として現れ、建物として形になっていくのです。そのため、建築家を選ぶ際には、その点を考慮し、自分が追求する豊かさに近い考え方を持った人を選ぶことが望ましいでしょう。

 

ライフスタイルから考える。


 現在の日本では、住宅を建てる機会はそう何度もありません。そのため、先ずは日頃から自分自身の生活の質と住居について考えておくことが重要だと思います。具体的には、新しい家のインテリアや外観を想像するだけでなく、自分のライフスタイルを生活のあらゆる側面まで含めて考えることがベストだと考えます。例えば、自分がよくする料理に合わせてキッチンのデザインを考えたり、洗濯がしやすい水回りの配置を検討したり、自分に適した収納方法を考えたり、住宅で解決してほしい苦手な点やニーズなどを考えることです。なぜなら、これらの生活シーンが連続していくことが住まいの本質だからです。もちろん、想像を現実のプランに落とし込むことは簡単ではありませんが、そのために建築家が存在していますので、遠慮せずに相談してみましょう。