衣食住と精神と五感
豊かさと建築の関係についてDesign Philosophyにて書きましたが、豊かさを感じる側の人の精神はどのように出来ているのでしょうか。それは私たちの体が日々の食事から成り立っているように、私たちの精神も日々触れる情報から形成されていると考えられると思います。
情報はメディアから流れてくるものと考えがちですが、私は情報を単なる視覚的情報だけでなく、五感を通じて受け取るもの全般を指すものと捉えています。食べ物が私たちの口から入るように、情報も私たちの目、耳、鼻、皮膚を通して入ってくるものと考えるのです。この五感から入る情報が、私たちの精神の栄養源であると考えています。そのため、何を食べ、何を見、何を聞き、何に触れるかといったことは非常に重要です。これが「衣食住」が大切である根底の理由です。
以前クライアントのお子様と一緒に散歩したとき、「あの家はレンガの偽物でできている」「あの家は木の偽物を使っている」と話していたことがありました。私自身も、特に模倣品を使用する必要があるのかどうかについて疑問を持っています。家に帰ったとき、最初に近くで目にする建築部位が玄関ドアだとしましょう。この場合、本物の素材が最もふさわしいと思っています。木であれば木製のもの、金属や塗装であればそれに合ったものを使用すべきです。なぜなら木目のプリントなどのイミテーションは「本物の木材を使用するとメンテナンスが必要。その面倒を回避できる。」という情報を発しています。便利は善か?このことについて受け取る側、特にそこで育つ子供の精神に与える影響について考慮する余地はあるのではないでしょうか。
現実的な観点から見ると、外部の木製外壁はメンテナンスが必要ですが、玄関ドアの場合、造作の木製ドアであっても、深い庇などの適切なプランニングにより劣化や反りなどのリスクを十分に回避できます。また、外壁のメンテナンスリスクも、足場を必要としない地上階やバルコニーに面する箇所に限定すれば、セルフメンテナンスが可能で、リスクを抑えることができます。すべては設計の質によります。
このように、建築は五感を通じて感じるものであり、住む人々の精神に影響を与えると考えています。その中でも、触覚には特に重点を置いています。家に帰ったとき、最初に玄関ドアの取っ手に触れ、手を洗う際に蛇口を操作し、トイレに入ると便座にお尻で触れ、食事をすると椅子に座り、寝るときは寝具に横たわります。建築においても、階段の手摺や、裸足で歩いたときの床の感触、使い勝手の良い水栓など、触感に関する要素は本当に些細ではありますが積み重なって日々を豊かにすると考えています。特に、家具の中で椅子とソファは、日常生活の中で体を預ける重要な要素であり、生活の豊かさに大きな影響を与えます。豊かな生活を送るために、建築の規模を縮小してでも、良質な椅子を手に入れることをおすすめします。椅子の選択に関するアドバイスも提供可能です。
日常の触れるものや感じるものの快適さ、すなわち衣食住を大切にし、それを意識して実現することが、豊かな精神を育む一環となり、相互作用にて豊かな生活へつながると考えています。